『偽装請負―格差社会の労働現場』 (朝日新聞社出版局、朝日新聞特別報道チーム著) を読みました。少しまえに話題になった、偽装請負や偽装派遣の問題について、現場取材の報告をもとにまとめています。
キャノン、松下、クリスタルグループの行ってきた偽装請負について、トヨタ系工場で起こった事故をめぐる「労災とばし」「労災隠し」の事例について、など、いま行われている請負システムにまつわる問題点がよくわかりました。
このような大企業を請け負う下請け企業と、その元で働く下請労働者のおかげで、大企業は不況下においても業績を回復することができた。空前の好景気(?)といわれる復興を向かえつつあるはずの我が国の経済。しかし、一部のホワイトカラーが優遇される一方で、多くの労働者が雇用関係すら結ぶことができず、社会保険にも加入できていない。年間200万~300万ほどの年収に止まっている。
時代の転換点において、「雇用の流動性」を高め、産業構造の転換をはかる必要があった。それは、派遣法のひとつの主旨であるといえるだろう。しかし、そのことによって、割をくう人々がいる。派遣労働者や請負労働者であることが、キャリアとして認められない現状がもっとも問題といえる。正社員がそんなにすごいか?そんなに仕事ができるか?そんなに熱心に働いてるか? ある区分の人々だけが、それだけを理由に優遇される根拠があるのだろうか。
新自由主義の改革が行われたイギリスでは、QCAとよばれる公的機関が、各産業の職能資格を細かく定めている。このことによって、職業能力を保証し、各労働者が転職しやすいようになっている。我が国のように、ひとつの社内ですらまともに職能制度が整っていないのであれば、転職活動をしても能力の保証が難しい。キャリアがはっきりしないのだ。
また、イギリスやアメリカでは、コミュニティ・カレッジが各自治体ごとにあって、無料に近い金額で、職能資格を得ることができる。時代に合わない産業の人々が、職を失ったとしても、あらたな職能を得る可能性がある。実際にはそれでも難しいことも多いけれど、そのくらいのジャンピングボード政策が必要といえる。
「セーフティネットからジャンピングボードへ」
今後の社会政策のキーワードになる。もちろん「ソーシャル・インクルージョン」も大切。
●厚生労働省 主な制度紹介 「職業安定局」
http://www.mhlw.go.jp/general/seido/index.html#anteikyoku
●厚生労働省「平成16年3月1日から、改正職業安定法及び改正労働者派遣法が施行されます。」
http://www.mhlw.go.jp/general/seido/anteikyoku/kaisei/
●労働安全衛生法
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S47/S47HO057.html
<文献>
● 『偽装請負―格差社会の労働現場』 (朝日新聞社出版局、朝日新聞特別報道チーム著)
● 『派遣のリアル-300万人の悲鳴が聞こえる』 (宝島社新書、門倉 貴史)
● 『イラストでわかる 新版 知らないと損する労働者派遣法』 (東洋経済新報社、派遣労働ネットワーク)