「私のミニ名所」
日比谷線の東銀座駅を出て、
昭和通りを日本橋方面に歩くと、クロネコヤマトの大きなビルが見える。このビルの1階に、小さなパン屋とカフェがある。青を基調にした店舗、
スワンベーカリーとスワンカフェである。
「スワンベーカリー」
店内には、50種類以上の焼きたてのパンやサンドイッチが並んでいる。見た目に趣向を凝らしたふっくらパンに、あれもこれもと迷ってしまう。 どのパンも、パサつきを抑え、とても食べやすい。
また、バースデーケーキ・クリスマスケーキなどのお祝いのケーキも含め、宅急便による通信販売を行っている。
スワンベーカリー銀座店人気ベスト10
1. クリームパン ¥120
2. レーズンロール ¥130
3. フランク ¥140
4. メロンパン ¥110
5. グリュイエールチーズ&ハム ¥140
6. 田舎アンパン ¥120
7. ピザベーコン ¥140
8. チーズパン ¥120
9. コーンマヨネーズ ¥130
10. 焼きカレー ¥120
「スワンカフェ」
ベーカリーの隣にあるスワンカフェは、昭和通りに面して全面ガラス張り、床はフローリング。 正面は注文を受けるカウンターとキッチンを並べて配置し、 両サイドのクリームイエローの壁にはモノクロームのポートレートや外国の街を撮影した写真が数葉飾られている。 明るく健康的なイメージと落ち着いた雰囲気を併せもち、客ばかりでなくスタッフにも居心地のよい空間になっている。
メニューは焼きたてのパンとホームメイドのサンドイッチを中心に、オリジナル・ブレンドのコーヒーを楽しめる。ディナータイムには、 カクテルやワインと、アラカルトなどのフードメニューもある。
こんなに素敵な店が、 「障害者のための就労施設」だと聞いたら、誰もが驚くだろう。このスワンベーカリーとスワンカフェ(株式会社スワン)は、 ヤマト福祉財団の全額出資によって経営されている。その名の通り、 このビルの持ち主であるヤマト運輸によって設立された財団である。理事長は「クロネコヤマトの宅急便」 の生みの親である小倉昌男氏。彼がどうして、このような財団と会社を興すに至ったのか。
「通所訓練施設」
心身に障害をお持ちの方が、養護学校を卒業したあとの暮らしをご存じだろうか。
企業に勤める方は例外で、大体は、「通所訓練施設」「作業所」と呼ばれるところに通うことになる。一例として、とある授産施設を挙げてみる。
農業を中心に、四季折々の野菜作りや、ビニールハウスでの鉢花作り等、環境を生かした作業や、駅前の文化会館にある、 喫茶コーナーの運営を行っている。 この喫茶コーナーで出すケーキやクッキーも、別の場所にある作業所で作っている。
ここで、彼らがひと月働いて、大体収入が1万から2万円くらい。他の施設では、5千円くらいのところもある。念を押すが、 ひと月の金額である。日給ではない。
これに、月額8万円程度の障害基礎年金を加えても、10万円を超える程度である。
自立した生活を送るのは難しいし、何より、働く喜びを感じられるのだろうか。
作業所の数(単位:ヶ所)
年 |
小規模作業所 |
授産施設(通所施設のみ) |
1997 |
4,441 |
1,029 |
1998 |
4,847 |
1,134 |
1999 |
5,202 |
1,522 |
2000 |
5,566 |
|
(共同作業所全国連絡会調べ)
「かわいそうなひとがつくる。だから買う」
これまでは、福祉といえばバザー。木の端切れで作ったペンダントなどを買って貰う。
お客は慈善行為として買うのであって、品物に興味があるわけではない。欲しいから買うのではなく、かわいそうだから買うのだ。
社会福祉法人の認可をとれば、国庫補助が出て建物は立派なものが建てられる。職員の給料は地方公務員並みになる。しかし、 障害者に支払われる月給は無認可の小規模作業所と大差がない。努力しなくても、国からお金が降りてくることに、安心してしまっている。
小倉氏の怒りは、「かわいそうな者がかわいそうな状態(月給1万円)でいる」ことへの怒りだけではなかった。どうしてもっと工夫しないのか、 人が欲しいものを作れないのか。
「商品(事業)開発力」「商品(事業)企画力」を駆使して、収益を上げ、働いて収入を手にする喜びを提供できないだろうか。
それが、冒頭で述べたスワンベーカリーとスワンカフェである。スワンのパン生地は、じつは「アンデルセン」「リトルマーメイド」 のタカキベーカリーの冷凍パン生地をもとに開発したものだ。一次発酵を終えたパンを急速冷凍し、 焼き上げる前に専門の機械で解凍し二次発酵させる。店での工程を減らしながらも、いつでも焼きたてのおいしさを提供できるようになっている。 これまでにも、パンの製造・販売を手がけている作業所はあったが、いずれも粉をこねるところから始めていた。 これではかなりの熟練が必要になる。
また、粉から作るパン製品の場合、何種類もの生地を用意せねばならず、多品種のパンを焼き上げるには限界がある。冷凍生地の場合は、 あらかじめ工場で何十種類もの生地をストックしておき、そのつど必要な数だけを焼き上げる。そのため様々なパンを店頭に並べることができる。
「スワン」という名も、「アンデルセン」のタカキベーカリーの業務提携ということから、 童話作家アンデルセンの作品にちなんで命名されている。ここでは、時給750円を支払っているから、月給では大体10万程度になる。 一般的な作業所の10倍の収入が得られる。
「ハンディキャップドからチャレンジドへ」
これまで英語では、心身に障害をもつ方を”the handicapped”や”the disabled”など表現してきた。 しかし、最近になって“the challenged” (チャレンジド)という言葉を使うようになってきている。障害をマイナスのものと捉えるのでなく、 障害を持つゆえに体験する様々な事象を自分自身のため、あるいは社会のためポジティブに生かして行こう、 という想いが込められている。 このような呼び名のもとには、健常者も障害者もなく、 人生と日常における様々な出来事をチャレンジすべきものと捉えることができる。” 挑戦” の旗印のもとにすべての人々は平等なのだ。 「才能がある」を意味する”gifted”より、 はるかに素敵な言葉だと思う。
超高齢化といわれる時代を迎え、高度なケアを必要とする人たちの人口比率が高まる中、働く意欲を持つ人が“チャレンジドであれ、 女性であれ、高齢者であれ”就労のチャンスを得て、社会参画や納税というかたちで「支える側」に回ることのできる社会システム。 そういうシステムの構築が、これからますます必要になる。 とくにバリアの大きいチャレンジドの就労における様々な障壁を取り除く知恵や努力は、チャレンジドのみならず、多くの人々にとって、 「自己実現可能な未来」への道を切り開くのではないだろうか。
●小倉氏は、ヤマト福祉財団を設立し、株式会社スワンを含め、
・障害者の働く場づくり
・共同作業所など、障害者施設の幹部職員に対しての、作業所運営の近代化、経営力強化のための教育研修
・ヤマト福祉財団賞の贈呈
の3つの自主事業と、
・心身に障害がある大学生への奨学金の提供
・障害者施設などにおける備品購入、施設改善資金の助成
などの一般助成事業といったものに取り組んでいる。
http://www.yamatofukushizaidan.or.jp/aboutus.html
●小規模作業所が社会福祉法人の認可を取れば、職員の給与の補助、施設に対する補助がもらえるが、土地建物や資産が必要となるなど、 高いバリアが存在する。
小規模作業所が社会福祉法人の認可を勝ち取るまでのドラマを綴ったものに、『どんぐりの家』(山本おさむ著 ビッグコミック 小学館) がある。小倉が今まで最も感銘を受けた書物だという。
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4091837611/citizenship-22/
●『小倉昌男の福祉革命―障害者「月給1万円」 からの脱出』 小学館文庫
建野 友保 (著)
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4094051015/citizenship-22/
●『福祉を変える経営~障害者の月給1万円からの脱出』 日経BP社
小倉 昌男 (著)
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4822243648/citizenship-22/
●『はばたけスワンベーカリー』 汐文社 ;
牧野 節子 (著)
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4811376536/citizenship-22/
●「チャレンジドを納税者にできる日本」をキャッチフレーズに活動する社会福祉法人 プロップ・ ステーション http://www.prop.or.jp/
理事長 竹中ナミ氏の著書『ラッキーウーマン マイナスこそプラスの種!』飛鳥新社
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4870315556/citizenship-22/
『プロップ・ステーションの挑戦―「チャレンジド」が社会を変える』筑摩書房
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/448086315X/citizenship-22/
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