公共的選択論レポート 2005/06/05
「少子化の背景をどう理解し、これにどう対応するか」
●少子化の背景について
少子化の背景には、以下のようなものが考えられる。
(1)未婚率の増加、晩婚化
(2)夫婦の出生力の低下
(3)経済的な背景
①子育ての機会費用の増大
②経済的不安定の増大等
③日本型雇用と少子化
(1)「未婚率の増加、晩婚化」
1980年代以降、 25~34歳の未婚率が上昇している。 2000年 (平成12年) では、男性の場合、25~29歳では、 69.3% 、30~34歳では42.9% 、女性の場合、25~29歳では54.0% 、30~34歳では26.6% となっている。
http://www8.cao.go.jp/shoushi/whitepaper/w-2004/html-g/html/gg121000.html
上の図のように、25~39歳までの未婚率の増加が目立つ。 わが国では、結婚したカップルが子供を生むことが多いので、未婚化が進むと少子化へとつながることになる。
(2)「夫婦の出生力の低下」
・「第12回出生動向基本調査」 (2002年 総務省統計局 国勢調査)によれば、「理想子ども数」では、結婚持続期間が0~4年の夫婦に尋ねると、2.31人、 結婚15~19年の夫婦に尋ねると、 2.69人。 「予定子ども数」を結婚期間が0~4年の夫婦に尋ねると1.99人、 結婚15~19年の夫婦では2.22人となっている。 若い夫婦の出生力の低下傾向がうかがえる。
(3)経済的な背景①「子育ての機会費用の増大」
経済的な側面だけで考えると、子どもには(1)働いて、親を助けてくれるという労働力としての役割、(2) 親の老後を面倒見てくれるという社会保障機能を担う役割、(3) 親を喜ばせてくれるというサービス消費的な目的を満たす役割があるとの指摘がある。(平成17年 年次経済財政報告) しかし、産業構造の変化、社会保障制度の整備などにより、(1)(2)の役割は弱まり、(3) の役割としての比重が高まっていると思われる。
「子どもを作ることの効用」と「子どもを生まなかった場合にその費用でできる他のこと」 を考慮して子どもを作り育てるかどうかを決めると考えられる。後者のような「子どもを生むことで、稼ぎそこなう費用」を機会費用という。
この出産・育児に伴う機会費用は、女性の高学歴化、男女の賃金格差の縮小などにともない、近年高まっている。下の図のように、 大卒女子の場合で、28歳で出産、 同時に退職し、子どもが小学校に入学後34歳で再就職するケースでは、 就業を継続した場合と比べ、約8,500万円(12)の所得逸失が発生するという結果になる。 このような多額の機会費用の逸失が、子どもを生むことを控える要因になっていると考えられる。
内閣府「平成15年度 年次経済財政報告」
http://www5.cao.go.jp/j-j/wp/wp-je03/03-3-1-06z.html
(3)経済的な背景②「経済的不安定の増大等」
90年代以降の経済停滞のなかで、 若者が社会的に自立するのが難しい社会状況になっている。2003 (平成15) 年には、フリーター数は217万人と推計されており、 15~34歳の労働力人口のうち、 10人に1人はフリーターとなっている。 また、ニート(仕事をせず、学生でもなく、職業訓練もしていない無業者)は約52万人と推計されている。 (厚生労働省「労働経済の分析」2004より)
年齢別の完全失業率をみると、他に比べて高く、かつ急速に上昇しているのが15~24歳層で、 2002年には9.9% と、10年前のほぼ2倍の水準に達している。 (総務省「労働力調査」)
このような若者の経済的不安定が、彼らが結婚し子どもを生み育てることを控える方向へと影響を与えていると思われる。
(3)経済的な背景③「日本型雇用と少子化」
・女性の再参入コストが大きい
日本型の雇用慣行では、終身雇用の前提のもと、それぞれの企業特殊的な人材を育てるところがあり、 特定分野のプロを育てようという考え方が少ない。いったんその会社を離れてしまうと、他の会社で通用する人材となるためには、 また職務を学ぶ必要がある。また、終身雇用を前提とした正社員と、非正規の時間労働者の待遇に大きな開きがある。正社員をやめると、 もういちど正社員の職を得るのは難しいし、パートの場合には賃金もかなり低い。したがって、女性が出産のために退社し、 復職することが難しい状況にあると思われる。
・男性の家事参加をめぐる状況
一方で、日本の企業は、労働時間・拘束時間が長く、転勤や単身赴任も多い。このような状況では、男性の家事参加は難しくなり、 女性の負担が重くなると考えられる。
●少子化にともなう人口減少へどのように対応するか
少子化と、それにともなう人口減少について、 ①人口減少にいかに対応するか、②少子化をいかに防ぐか、 の2つの観点から考えることができる。
①では、中短期的には、人口減少は必然のものとして受けとめ、社会保障制度、労働力人口の確保などの対策をとる必要がある。 ここでは議論を絞り、②少子化をいかに防ぐかについて考えていく。
少子化対策として、その背景を整理しながら考える。
(1)女性の社会進出
(2)経済的不安定の増大等
(3)日本型雇用と結婚観
(1)の女性の社会進出を背景とする少子化対策としては、女性の社会参画と子育てが両立するような社会を築く必要がある。
まず、保育サービスの充実、育児保険、養育保険などの対策が考えられる。保育サービスを充実させるためにも、措置保育からユニバーサル・ サービス保育へ転換することも必要だろう。バウチャー方式、もしくは社会保険方式(育児保険・養育保険)を用いて、 多様なサービス主体が参入し、互いに競合させ、住民が選択できるしくみを作るべきである。
また、女性も男性も、育児休業を取得できるように、企業が代替職員を雇用できるように経済的支援をする必要がある。 男性も家庭参加できるよう、労働時間の短縮を進めるべきである。
(2)では、経済活力を回復させること、若年者の雇用対策に力をいれる必要がある。あわせて、出産・育児に伴う養育費・ 教育費の支援も必要である。減税、児童手当、奨学金制度の充実をはかりたい。
(3)では、終身雇用や年功賃金などの日本型雇用慣行について見直す必要がある。結婚観については、事実婚や婚外子を認め、 いままでの家族観、家族形態にこだわらない子育てができるようにしたい。
このほか、職住が離れ、通勤に時間がかかることも、育児と仕事を両立しずらくしている原因と思われる。 住まいと職場をひとつにした都市政策についても考えていくべきである。
<参考>
内閣府「平成15年度 年次経済財政報告」
http://www5.cao.go.jp/j-j/wp/wp-je03/03-00000.html
「平成16年度 年次経済財政報告」
http://www5.cao.go.jp/j-j/wp/wp-je04/04-00000.html
内閣府「平成16年版 少子化社会白書」
http://www8.cao.go.jp/shoushi/whitepaper/index-w.html
「公共的選択論」講義レジュメ
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