行政法分野における環境関連法について
ここでは、環境関連法のなかでも、行政法に関わるものについて、レポートを書きます。
●化学物質の管理のながれ
●化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律(化審法)1973年
●化審法の課題と改善の方向性
●特定化学物質の環境中への排出量の把握及び管理の改善の促進に関する法律(PRTR法)
平成11年
●PRTR制度の課題
●化学物質対策の制度の課題と改善の方向性
●ダイオキシン汚染対策特別措置法1999年
●まとめ
●化学物質の管理のながれ
足尾鉱毒事件を端緒として、有害物質による環境リスクが社会的問題となってきた。その後、PCB (ポリ塩化ビフェニル)問題を契機に、新規化学物質の製造・輸入に際し、その安全性を審査することによって、 化学物質による環境汚染の未然防止を目的として、1973年に 「化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律(化審法)」が制定された。当初は、新規化学物質の事前審査制度によって、 人の健康を損なうおそれのあるものを特定化学物質に指定し、規制措置を講じてきた。
しかし、トリクロロエチレンのように生体への蓄積性が大きくなくても、難分解性で長期毒性を有し、 環境汚染のおそれのある化学物質の存在に対応するため、1986年に改正され、 そのような化学物質を新たに第二種特定化学物質として、または、 その疑いのあるものを指定化学物質として規制対象とすることになった。この改正で、化学物質のハザードだけでなく、 環境中における残留の程度もあわせて考慮し、化学物質のもつリスクに対応する考え方に転換することとなった。
そして、化学物質による環境汚染の未然防止のため、1999年に 「特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法律(PRTR法) 」が制定された。この法律は、PRTR(環境汚染物質排出移動登録)と、 MSDS (化学物質安全性データシート)の制度を導入し、事業者による化学物質の自主的な管理の改善を促進し、 環境の保全上の支障を未然に防止することを目的としている。
また、化学物質を使用する立場からは、リスクコミュニケーションの重要性が指摘されてきている。これは、 PRTRデータなど化学物質による環境リスクに関する情報を、 行政、事業者、NGO、 国民などの関係主体が共有し、リスクへの認識を深め意思疎通を図ることをねらいとしている。 このような適切なリスクコミュニケーションを進めるための社会的な基盤整備が必要となっている。
●化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律(化審法)1973年
1968年のカネミ油症事件における米ぬか油に混入のPCB汚染を契機として1973年に制定された。 1986年にそれまでの特定物質を第一種特定物質とし、 第二種指定物質と指定物質を新たに加える改正がなされている。
新規の化学物質(1トンを超える生産量)の製造・輸入時の届出を義務づけ経済産業大臣及び厚生労働大臣が、難分解性、高蓄積性、 慢性毒性の性状を審査し、環境大臣は判定の前に説明を求め、意見を述べ、次の規制措置をとる。
・1986年制定時
第一種特定物質 |
難分解性、高蓄積性、長期毒性を有するPCB等 |
物質の製造・輸入の許可制 使用の用途制限(試験研究等) |
指定物質 |
難分解性があるが、蓄積性がない |
届出制、有害性試験の報告書提出を義務づけ |
第二種特定物質 |
健康被害のおそれがある(長期毒性) |
製造数量等の届出による量的規制 |
・2003年改正法で、 生態系への影響を考慮した動植物の毒性評価と審査の効率化を図る改正が行われた。従来の生産量1トン以下の足切りに加え、 10トン以下の中間物・ 閉鎖系での使用、蓄積性がない化学物質について、事前審査から、事前確認・事後監視とし、審査の効率を図る。 事業者が入手した有害性情報の報告の義務づけ、そのほか以下のような規制措置をとっている。
第一種特定化学物質(15物質) |
難分解性、高濃縮性及び長期毒性又は高次補食動物への慢性毒性を有する |
製造又は輸入の許可制、使用の制限等の措置が規定 |
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第二種特定化学物質(23物質) |
難分解性、長期毒性又は生活環境動植物への長期毒性を有する化学物質 |
製造・輸入の予定及び実績数量等の届出。 製造又は輸入予定数量の変更命令。 技術上の指針公表・勧告 表示義務・勧告 |
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第一種監視化学物質(22物質) |
既存化学物質のうち、 難分解性、高蓄積性がある化学物質 |
製造・輸入実績数量等の届出制
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長期毒性、高次捕食動物への被害がある場合には、第一種特定化学物質に指定 |
第二種監視化学物質 |
難分解性があるが、高蓄積性がない 人への長期毒性の疑いあり |
製造・輸入実績数量等の届出制 |
旧指定物質 |
第三種監視化学物質 |
難分解性があるが、高蓄積性はない。 動植物への毒性あり (新規および既存化学物質) |
製造・輸入実績数量等の届出制 |
生活環境動植物への毒性を有し、かつ被害のおそれが認められる環境が存在する場合、 第二種特定化学物質の指定 |
●化審法の課題と改善の方向性[i]
・個別の生物種に有害性を示す「生態毒性物質」と生態系への影響との因果関係は必ずしも明らかになっていない。生物種・生物量の変化、 環境中での化学物質の濃度などのモニタリングを行い、因果関係に関する科学的知見を深めていく必要がある。
・生態毒性物質について、科学的に解明がなされるまでのあいだも、生態系への影響の未然防止に資するようにつとめなければならない。 事業者の自主管理を促す枠組をつくる必要がある。
●特定化学物質の環境中への排出量の把握及び管理の改善の促進に関する法律(PRTR法) 平成11年
さまざまな排出源から環境へ排出され、または廃棄物として処理するため移動される有害化学物質の登録制度である。 事業者は第1種指定化学物質の環境中への排出量と移動量を把握し、毎年度、都道府県知事を経由して、事業所管大臣に届け出る。 そのデータを国が集計・公表する。国民には、情報開示請求権が認められている。社会全体で化学物質の管理を進め、 環境保全の上での支障を未然に防止していくための枠組みである。
対象化学物質については、「人の健康を損なうおそれや動植物の生息・生育に支障を及ぼすおそれがある等の性状を有する化学物質で、 相当広範な地域の環境中に継続して存在すると認められるものを対象としている。具体的には、化学物質排出把握管理促進法施行令で指定された 「第一種指定化学物質」354物質を指す。
対象事業者は、対象化学物質を取り扱う事業者や、環境へ排出することが見込まれる事業者のうち、 常用雇用者数21人以上であって、 製造業など23の業種に属する事業を営み、 かつ、対象化学物質の年間取扱量が1トン以上の事業所を有しているなどの要件に該当するものとしている。
対象事業者は、対象化学物質の排出量(大気、公共用水域、土壌、埋立)、移動量(廃棄物移動:廃棄物として事業所の外への移動、 下水道への移動)の区分ごとに把握し、届け出る。
・MSDS制度
製品要件を満たした第一種指定化学物質(354種類) 、第二種指定化学物質(81物質) を取り扱う事業者は、他の事業者に対して当該物質を含む製品を譲渡・提供するときに、MSDS (Material Safety Data Sheet: 化学物質安全データシート)の添付が義務づけられている。事業者が年間取扱量を算出する際に必要な情報となる。
●PRTR制度の課題[ii]
①届出排出量・移動量の限界
常用雇用者21人以上、製造業などの23業種でかつ、 対象化学物質の年間取り扱い量が1トン以上であるなど、要件を満たした事業者が届出を行うため、 届け出られた排出量等がすべての事業者からの排出量を網羅しているわけではない。また、 化学物質排出把握管理促進法施行規則で認められた算出方法のうち、事業者が適当と判断した方法により排出量を把握することになっており、 必ずしもすべてが実測値に基づくものではなく、その精度には一定の限界がある。
②届出外害排出量の限界
届出外排出量については、想定される主要な排出源を対象に国が推計している。しかし、 現時点で利用可能な信頼できる知見が存在するもののみが対象であり、すべての排出源を網羅したものではない。推計の精度にも限界がある。 推計手法についても改善を進めているところであり、その手法が安定するまでは、年度ごとの推計値を単純に比較することができない。
③届出排出量・移動量と届出排出量の比較の限界
同一化学物質でも、届出排出量・移動量と届出外排出量を比較する際には、その精度に限界がある。このふたつの排出量・ 移動量をあわせても、すべての排出源を網羅したものにはならない。
④公表データによるリスク評価の限界
PRTRで公表されるデータは、 排出量・移動量の集計値であり、人や動植物が環境中にさらされる化学物質の量(暴露量)ではない。また、 化学物質が人の健康や動植物に影響を及ぼすリスクの大小を直接あらわすものでもない。化学物質のリスクを、 有害性と暴露の評価から実施しなければならない。
●化学物質対策の制度の課題と改善の方向性[iii]
①「もぐらたたき」
ひとつの環境問題を解決するために、ある化学物質Aを、 ほかの化学物質Bに代替しても、 その化学物質Bが新たな環境問題を引き起こすことがある。 このように、化学物質の管理をしても、「もぐらたたき」のように、次々と問題があらわれてくる。
したがって、代替以外にも、事業者による作業管理や設備の導入・整備なども必要になる。中小・零細企業については、 資金不足や情報不足により対応が遅れがちである。このような企業に対する支援も必要になるだろう。
②「あれもこれも化学物質」の恐怖
PRTR法は、 企業による自主的管理の改善を目指しているものである。しかし、管理を求められる化学物質の範囲は、ますます広がっていく。 企業によっては、「わが社は、化学物質を作っても、使ってもいないから関係ない」と考えてしまうかもしれない。 今までは考えていなかった物質が法律の対象となっていることもあるだろう。
「自主的管理」も、企業の意識があってのことである。政府としては、規制の変化や、 法改正のおりに情報の周知徹底をしなければならない。
●ダイオキシン汚染対策特別措置法1999年
所沢のダイオキシン汚染問題を契機に議員立法で制定された。一日耐容摂取量(4ピコグラム以下)を法定化し、これに基づき大気・水・ 土壌にわたって環境基準、排出基準を定めている。
ダイオキシン類の長期毒性について動物実験による知見はあるが、科学的知見がまだ不十分である。そこで、 汚染物質の排出を未然防止の観点から規制する環境基本法の体系の下ではなく、特別措置法として制定されている。
●まとめ
化学物質のもつリスクは、まだ不確実なものが多い。科学的知見も不十分であり、信頼性も不足している。予防原則は、 このような科学的不確実性を承知のうえで、将来起こりうるかもしれない被害を避けるためのルールである。この考え方は、 企業をはじめ国民に周知されているとは言いがたい。企業は報告の義務を果たすこと、行政は情報開示を進めることなど、 リスクコミュニケーションが十分に機能されるよう努力しなければいけない。
また、企業横断的シンクタンクを設立できるよう支援するのはどうだろうか。新規化学物質、既存物質の新たなリスクを研究、 民間独自にガイドラインを示し、加盟業者に対応を呼びかけていくこともできるだろう。企業の社会的責任について、 意識させる努力も必要になると思われる。
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