容器包装プラスチック中間処理施設の建設問題にみるリサイクル政策の諸問題について

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容器包装プラスチック中間処理施設の建設問題にみるリサイクル政策の諸問題について

 

 

0.はじめに

 現在町田市小山ヶ丘地区では、容器包装プラスチック中間処理施設の建設をめぐって、自治体と住民が対立している。とくに、小山ヶ丘地区は、 八王子市とも隣接しており、大きな反発を引き起こしている。杉並区で1996年から稼動している不燃ゴミ圧縮施設 「杉並中継所」が、付近一帯の住民に呼吸困難、頭痛などの被害を起こしているとの指摘があり、「杉並病」と称されている。 この杉並病の問題が、小山ヶ丘の処理施設建設にも影響を与え、住民の反対運動の根拠にもなっているようである。

 本稿では、小山ヶ丘や杉並区の問題を出発点としながら、プラスチック・リサイクルの諸問題について考えてみたい。

 

1.容器包装リサイクル法の成立

 1995年に容器包装リサイクル法が成立、 97年に一部施行、 2000年に全面施行された。 同法は、容器包装廃棄物について、消費者による分別排出、 市町村による分別収集および事業者による再商品化を促進することを目的とするものである。特定事業者にガラス製容器、 ペットボトル、プラスチック製容器、紙製容器包装の商品化を義務付けている。 これらの再商品化の履行方法として①自主回収ルート、②指定法人ルート、③独自ルートの3通りから選択できる。①は、 事業者が自らまたは他の者に委託し、素材メーカーに運んで再商品化する。②は、委託費により、 事前に登録された再生処理事業者のなかから入札で指定保管施設ごとにその再生処理事業者を選定し、委託する。 再生処理事業者は再生処理工場へ運び、商品化して利用事業者に有償で引き渡す。③は、 特定事業者が市町村の回収した分別基準適合物を受け入れて、みずからまたは委託により再商品化を実施するものである。

 1997年からガラス製容器やペットボトルが対象となり、 2000年からペットボトル以外のプラスチック製容器包装や発泡トレイ、 紙製容器包装に対象が拡大された。

 

 

2.町田市における容器包装プラスチックの分別収集・資源化事業

 現在、町田市では、プラスチックごみを焼却処理しており、そこから放出される二酸化炭素やダイオキシンの影響について懸念がなされている。 そこで、プラスチックを燃やさずに資源化を図り有効利用することが求められている。また、焼却処理により発生した焼却灰については、 日の出町の最終処分場、二ツ塚処分場で埋立処理をしてきた。ここでは多摩地域25市と1町の390万人から排出されたごみが搬入される。 この量を少しでも減らし、処分場の延命を図ることがこの事業の目的とされている。

 したがって、容器や包装に使われたプラスチックを資源化するために、 容器包装リサイクル法で定められた処理をするための中間処理施設が必要となる。 家庭から分別排出された容器包装プラスチックを市町村が収集し、施設に備えられた受入ストックヤードに搬入、 投入ホッパーから破砕機に送られる。ここで収集用の袋が破砕され、中のプラスチックは、手作業で選別したのち、 分別基準適合物として1メートル四方の立方体に圧縮してバンド締めされる。これらは、一時保管された後、再商品化事業者に引渡しされる。

 

 当初は、町田リサイクル文化センターの敷地内に中間処理施設の建設を計画していたが、地元住民の理解を得られずに断念、 次に南町田の準工業地区に計画を移すもやはり反対にあい断念してきた経緯がある。町田市としては、計画している施設は、 不燃ごみの中継基地である杉並中継所と違い、プラスチック製容器包装のみを扱う中間処理施設であり、 周辺環境に影響を及ぼすとは考えられないと強調している。

 しかしながら、東京大学大学院 環境地球環境工学部影本/阿久津研究室では、 過去にプラスチックの圧縮実験を行い、単なるプラスチックの圧縮だけでも有毒なVOC Volatile Organic Compounds) 物質(揮発性有機化合物)が発生したことを確認している。[i]

 したがって、杉並中継所と異なった町田市の中間処理施設においても、安全であるとの断言はできず、近隣住民は反対の唱え続けている。 市としては、バグフィルターを設置し、大気への影響はないとしているが、一方で民間事業者による管理となるため、 安全性の確保について不安視もなされている。

 

3.容器包装リサイクル法の問題点

 容器包装リサイクル法の問題点としては、まず、ドイツやフランスの制度に比べて事業者負担が少ないことがあげられる。したがって、 処理しやすい容器への転換が起こらず、容器がますます増産されていく。ペットボトルは、97年に容器包装リサイクル法が施行されて以来、 リサイクル率が0.6% から20% に増加したが、同時に生産量も2.5倍に膨れあがっている。

もう1つの問題点としては、再生資源の需要が増加しない限り、回収した容器包装は廃棄物にならざるをえない、ということである。 市町村が分別に意欲的に取り組めば取り組むほど、回収が進み、再生資源の供給量が需要量をオーバーし、超過分がごみになってしまう。 市町村は主務大臣が定めた「再商品化計画量」を考慮して「分別収集基本計画」を立てなければならないので、 責任は市町村にあることになってしまうのである。「再商品化計画量」を実現させるための再生資源の需要量を拡大しなければならない。

 

 このほかの問題点としては、①素材の識別が困難、②複合素材の容器・包装が多いため区別できない、 ③消費者にペットボトルなどの飲用容器についてリユース性、リサイクル製の高い容器を選択させるなど発生抑制がなされていない、 ④同種の素材で容器包装以外のもののリサイクルを検討すべき、などの指摘もなされている。

 

 このように、容器包装リサイクル法では、生産事業者の負担や責任が、住民や自治体に比べて低いこと、再生資源の供給が増えつづけると結局、 あたらしいゴミを作りつづけることになってしまうという問題点がある。

 

4.拡大生産者責任と循環型社会形成推進法

 このような流れのなかで、生産者の責任が、ますます叫ばれるようになってきた。 家庭や事業所から排出される廃棄物も元をたどれば生産者が責任がある」という考え方がなされるようになり、これを「拡大生産者責任」 (Extended Producer Responsibility) と呼んでいる。廃棄物になったときの処理のしやすさ、リサイクルのしやすさにも生産者は責任があり、 リサイクルしやすいように材質や設計に配慮する必要があるとする考え方である。このような考え方を実現するには、 処理費用を生産者に負担させて価格に上乗せする「外部費用の内部化」「市場に内部化」の考え方が大切である。

 日本の「容器包装リサイクル法」や「家電リサイクル法」でも、 この拡大生産者責任の考えが実現されているという主張も政府などからなされている。しかし、容器包装リサイクル法では、廃棄物の回収・ 保管費用を自治体が負担することとなっており、自治体の税金で処理されることになっている。「拡大生産者責任」の考え方からすれば、 これらの費用は生産者が負担しなければならない。また、「家電リサイクル法」では、処理・ リサイクル費用の生産者責任をまったく実現できていない。

 このような状況のもとでは、生産者が容器包装の排出量を削減したり、リサイクルしやすい製品設計を進めることは難しい。 生産者対策が国の施策で、容器回収・保管が自治体による事業であるところに、これらの問題の根源がある。 川上の対策と川下の対策がかみあっていないのである。

 

2000年に循環型社会形成推進基本法が制定され、 「拡大生産者責任」の考えを導入したといわれている。このなかには、循環型社会をつくるため 「適切な役割分担のもとに適正かつ公平に費用を分担する」と述べられている。しかしながら、上で述べたように、 事業者の費用負担はほとんどみられない。耳障りのいい「役割分担論」のお題目に終始している。

 OECDの「拡大生産者責任」では、①金銭的な責任、②物理的な責任、があげられている。①の金銭的な責任では、生産者には、 廃棄物の回収・処理に関するコストを価格に含める形で「環境コスト」を負担する。消費者には、製品の購入を通じて「環境コスト」 を負担する責任をあげ、両者に責任を課している。

 ②の物理的な責任では、生産者には、製品の製造から販売、使用、排出、回収・・ の製品のライフサイクル全般において環境負荷の低下を目指す責任が課せられ、消費者には、分別回収に協力する責任、政府・地方自治体には、 「拡大生産者責任」を実現させるための社会整備をおこなう責任を課している。

 このようなバランスのよい負担と責任によって、廃棄物の排出量を低減する作用を、費用負担とともに内部化しているのである。

 

5.まとめ

 以上にみてきたように、わが国の容器包装リサイクルにおいては、「拡大生産者責任」 の考えを実現するような施策がなされていないことがわかる。その根源には、川上対策である生産者責任の設計は国の施策であり、回収・ 処理の事業である川下対策は自治体に押し付けられていることがあるだろう。国政は住民から遠く、企業団体つまり生産者寄りになりやすい。 住民に近い立場である自治体は、川上対策の政策形成のアクターではない現実がある。今後は、各自治体が国政への発言力を強くもつ必要がある。

 また、プラスチック・リサイクルについて、本稿では触れられなかったが、サーマル・リサイクルかマテリアル・ リサイクルかの議論も残されている。プラスチックを燃料とするのか、再資源とするのか。どちらがコストとしては、よりましなのか。 リサイクルを市場化すべきかどうか。市場化するときには、イコール・フッティングを設定し、 リサイクルへのインセンティブをどの程度はたらかせるべきか、など、細かな議論は数多く残されている。このような状況で、 住民の政策判断はとても難しい。環境に対するリテラシーと客観的な判断力をどのように磨いていけばよいのか、 今後も市民の理性が問われるだろう。

 

 

【参考文献】

岩佐恵美『スッキリわかるごみ問題 解決のための必携書』新日本出版社、2005

川名英之・伊藤茂孝『杉並病公害』緑風出版、2002

熊本一規『これでわかるごみ問題Q&A ここが問題!日本のリサイクル法』合同出版、2000

熊本一規『ごみ行政はどこが間違っているのか?』合同出版、1999

鈴木崇弘ら編著『シチズン・リテラシー』教育出版、2005

『広報 まちだ200512月1日 第1454号』 町田市、2005

(社)産業環境管理協会『環境講座 環境政策と環境法体系』丸善、2004



[i] 「北河内4市リサイクル施設組合専門委員会 報告書」

 

 

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このページは、Masahiro Ohkuboが2006年1月31日 22:03に書いたブログ記事です。

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