「くださる」と「いただく」

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 語学を教えた経験や、編集者として活字を扱う仕事をしてきたせいか、どうも自分や他人の言葉が気になります。ひとつひとつの言葉に後悔したり、言葉の意味がよくわからなくなったり、ということが日々あります。最も気になるのが、「くださる」と「いただく」の違いです。

 たとえば、とあるホテルのホームページにあった「利用説明書をよくご覧になり、お申し込みいただきますようお願い申しあげます。」というくだりを考えましょう。この「いただく」は話者を主語にしているのでしょうか、それとも、話題のなかの動作の主体(お相手)を指しているのでしょうか。

 

 「いただく」は、”話者が”「受け取る」の意味の謙譲語です。ホテルの人間が、お客様にお願いするときに、ホテルマンの意思を表す「いただく」を使うのは誤りです。ここは、お客様の意思を表す「下さる」(与えるの尊敬語)を用いるべきです。したがって、「利用説明書をよくご覧になり、お申し込み下さり(下さい)ますようお願い申し上げます。」となります。もしかしたら、気持ち悪く感じる方もいらっしゃいるかもしれません。(でも、それは毒されていると思います・・)

 とはいえ、もはや誤りともいえないのでしょうね。まちを歩いていても、メールを読んでいても、このような用例があまりにも多く、本来の用例はほとんど見られません。(しかしやはり違和感が残るのです・・)

 「いただく」の正しい使い方としては、「ご指導いただきまして、大変うれしく存じます」のようにします。「相手の好意・行為を受け取る」ことを指し、その後には、話者がどのように感じたか、考えたか、行動をしたかを指す表現が続くのです。相手を持ち上げ、自分がへりくだる表現なのですよね。


 また、「お申し込みいただけますようお願い申し上げます」という使い方をときどき見かけます。「いただく」は、5段活用の動詞ですから、「け(エ)」の音は、仮定形になります。後ろに「レバ」をつけてみるとわかりますよね。「いただけレバ」となりますから、仮定の助詞につく活用形です。やはり連用形接続である「いただき」(イ)の形にするのが正しいのでしょう。

 先日、ロンドンに行った際も、旅行会社のガイドさんが、「いただけますようお願い申し上げます」を連発していました。文字で見ることは多かったのですが、これだけ目の前で使われるのは初めてでした。若い男の子でしたので、目の前で注意しようかと思いましたが、お客さんの前で恥をかかせるのもかわいそうなので堪えました。(車酔いとあわせて気持ち悪さが増していたのでした)

 これだけ書くと、多くの方を敵に回し、「何を偉そうに」と思われてしまいそうです。でも・・。みなさんはどうお考えになりますか。ご意見をお聞かせいただければ幸いです。(この「いただく」は「レバ」と接続し仮定条件で用いています)

コメント(2)

おっしゃるとおりだと思います。
電話やメールなどで「いただく」の誤用を見聞きするたびに…違和感が走ります。

matさん
コメントありがとうございます。

もう、「いただく」の濫用で何が正しいのかよくわからなくなってきますね。このまま「慣用的に正しい」と言われてしまうのかな・・・。
ちょっとさびしいです。

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このブログ記事について

このページは、Masahiro Ohkuboが2005年12月24日 18:54に書いたブログ記事です。

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