『思索紀行 ―ぼくはこんな旅をしてきた』

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 『思索紀行 ―ぼくはこんな旅をしてきた』(立花 隆、情報書籍社)を読みました。

anti-zionism

 本書は、その名の通り立花隆の紀行文です。いつもの立花節さながらに、旅行遍歴の一部を語ります。いつもは、彼の論調を補強するために、旅行(現地取材)の話が取り入れられますが、本書では旅が起点になって、ときには内省へと向かい、ときには時勢を語ります。実際にはふつうの旅行記ではなく、いわゆるエッセイ・評論なので、「思索紀行」と名のっています。


■概要:さまざまな国を渡り、多岐にわたる話題に触れる

 ですから、話題は多岐にわたります。ギリシア、トルコ、イラン、イラクへの古代遺跡めぐり。無人島での体験、モンゴルでの皆既日食。フランスのブルゴーニュで日本のソムリエと一緒にワイン修行の旅。ギリシアのアトス半島での修道院の旅では、「神のための音楽」に耳を傾ける。
 パラグアイ、アルゼンチン、ブラジルの三国の国境周辺にあるイグアスでは、イエズス会の伝道師たちがインディオを教化し、理想の伝道村を作った。
 大学時代には反戦映画の上映を企画し、ヨーロッパを放浪。レバノン、イスラエル、ヨルダンなどを歩き、パレスチナ問題についての彼なりの見解をまとめる。
 ニューヨークの9・11についても。


■イエズス会の創った理想郷・伝道村、スペイン・ポルトガル軍によるインディオへの虐殺

 衝撃的なのは、イグアス紀行の章での、スペイン人たちによるインディオの虐殺、略取・・。当時の白人にとって、インディオは人間に見えなかったらしく、「インディオが人間か動物か」という議論がなされ、本国からも調査団が派遣されたほど。彼らの発するものが、言葉とすら取れなかったのだろう。
 あるときは、スペイン人が犬を連れてうさぎ狩りにでかけたところ、獲物が獲られず、犬の空腹を見かねたそのスペイン人が、インディオの母子から幼子を奪い、その腕と足を短刀で切り、犬に分け与えたという。犬がそれを食い尽くすと、さらにその胴体も投げ与えた・・・。

 あるときには、降伏したインディオを戦力にし、他のインディオと戦わせたが、彼らに食事を与えることはなかった。その代わりに、捕らえたインディオを食べるのを許していたという。

 立花隆が、この地に向かうきっかけになったのが、『ミッション』という映画。イエズス会の伝道村と、そこに攻め入るスペイン・ポルトガルの連合軍の話。伝道村の内部は、武力抗戦派と非暴力不服従派に分かれる・・・。こちらもあわせて見ると分かりやすい・・・。


■パレスチナ報告:シオニズムとユダヤ人、パレスチナ人

 パレスチナ問題については、実際の取材と文献による考察によって、シオニズムとパレスチナ、イスラム教とユダヤ教についてがよくわかります。あくまで彼なりの見方ではありますが・・・。じつは、シオニズムはユダヤ人全体から支持を受けているわけではない、それどころかユダヤ人のなかには一貫して強い反シオニズム運動すらあるという。
 また、あるときは、シオニストとナチスが協力すらしていた。ナチスはユダヤ人を追い出したいという段階では、ユダヤ国家を設立しエルサレムに帰ろうとするシオニストと利害が一致していた・・・。

 一方の、イスラエル建設によって追い出された旧パレスチナのパレスチナ人はどうか・・。立花は、レバノンのベイルートにある、パレスチナ人の小学校を訪ねる。パレスチナ人の学校は、その学校のおかれている国のカリキュラムに従って教えられており、この学校であればレバノンのカリキュラムに沿っている。
 しかし、歴史と地理だけは、特別な時間をとって教えられているとのこと。地理の教科書には、パレスチナの産業が開設され、写真も1948年以前のものが扱われている。イスラエルの誇る工業については触れられていない・・・。(私が英国に行ったときにレバノン人の留学生とお話する機会があったのですが、彼いわく、レバノンでは地域によって歴史・地理の教科書が違っており、それぞれの民族によって歴史の解釈に差異があり、紛争のもとになってしまうから、とのことでした。ここでそれらがつながります。)


■9・11とパレスチナ

 ニューヨークの自爆テロとパレスチナの考察では、ブッシュがテロリストへの闘いを『十字軍』と表現したことによって、アフガニスタン以外のイスラム諸国からの協力が得られなかったいきさつが描かれている。ジハードは、イスラム教徒とキリスト教徒との戦いであるから、もっともだ・・。このあたりは、 『アラブから見た十字軍』(アミン・マアルーフ、筑摩書房)を引き合いに出しています。


 ・・・解釈がまちがっていたらゴメンナサイ。そのときには、ご教示いただければ幸いです。


■第2弾へ:エーゲ海の旅

 さて、この本の帯には、「立花隆の世界思想紀行、第1弾!!」とあります。どうやら、第2弾は、『エーゲ―永遠回帰の海』 (立花 隆 著、須田 慎太郎 写真、書籍情報社)のもよう。おそらく、第1弾では軽く触れるだけだった、ギリシア、トルコの取材旅行の部分を掘り下げての一冊だと思います。時間があれば読んでみたいな・・。(つぎはトインビーを読むつもりなのでした。)


■追記:反シオニズム運動
 冒頭の写真は、2005年5月のロンドンで撮った写真です。左側のピンクの横断幕には、「ZIONISM IS RACISM」とあり、反シオニズム運動のデモ行進であることがわかります。この『思索紀行』を読んで思い出したので、載せてみました。

■メモ
・シオニズムを批判するユダヤ人たち
 http://inri.client.jp/hexagon/floorA6F_hd/a6fhd100.html
Wikipedia:シオニズム
Wikipedia:反シオニズム

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このブログ記事について

このページは、Masahiro Ohkuboが2007年1月28日 02:21に書いたブログ記事です。

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