1.はじめに
各自治体における自治基本条例(自治の条例)を比較・検討するまえに、そのモデルとなったものを探り、その観点を検討すべきと考えた。 今回は、アメリカの地方自治における「ホームルール」について概略をまとめ、日本の自治基本条例に与えた影響について考察してみたい。
2.ホームルールの概略
●ホームルールの原義
○「ホームルール(home rule) 」 とは、アイルランドの自治権獲得運動を指す言葉に由来。
・「ホームルール(Home Rule) 」 は「アイルランドの自治という目標を表すため、アイルランド愛国主義者によって採用された政治的スローガン」
(Barbara A. Chernow & George A. Vallasi (eds), The Columbia Encyclopedia (Fifth Edition ), Columbia University Press, New York , 1993, p.1261)
・1870年 アイザック・ バットが「ホームルール協会」が形成され、19世紀末~20世紀初頭にかけて英国で 「ホームルール運動」展開。その際に「ホームルール(Home Rule) 」の言葉を用いる。
○1890年 ロンドンでは、 「より大きな自治を与える提言」として「ホームルール(home rule) 」という言葉を使用。その後、「地方または地域のあらゆる形態の自己決定(self-determination) 」に適用される一般用語として用いられるようになる。
(William B.Munro, “Home Rule” in Encyclopedia of the Social Sciences, Macmillan and Co., New york, 1930, Vol.4, p.434)
○アメリカでは、地域主導の「地方自治」を意味するようになる。法学的な定義はない。
ハワード・マクベインの定義「自治体ホームルール(municipal home rule) という用語は、広義に解釈すれば、その権限の授与が州憲法に基づくものであれ、州法に基づくものであれ、 都市に授与され得る何らかの自治権に関係している。しかしながらアメリカの用法では、この言葉は、 州憲法条項により都市に授与された権限とりわけ都市に自ら憲章を起草し採択する権限を与える条項に関連した言葉である」 (Howard Lee McBain, The Law and the Practice of Municipal Home Rule, Columbia University Press, New York, 1916, p.857)
→「ホームルール」は、「州憲法」によって自治体に授与された権限である。という見方がなされているようである。
●ホームルールの現代的定義
ホームルールとは、
・「地方政府に授与された憲章を制定し自己の問題を管理運営する権限」
(Jeffrey M. Elliot and Sheikh R. Ali, The State and Local Government Political Dictionary, op.cit., p.48)
・「地方の政府単位(通常は都市)に賦与された自らの憲章を制定しあるいは変更し、自己の問題を管理運営する権限」 (Jack C.Plano & Milton Greenberg, The American Political Dictionary (Eleventh Edition), op.cit., p.678)
・「自治体法人が自己の憲章を制定し執行することのできる能力もしくは権限」 (Jay M.Shafritz, The Harper Collins Dictionary of American Government and Politics, Harper Perennial, New York, 1992, p.278)
・「今日では、憲章という言葉は、立法措置によって提示され市によって選択された憲章、 あるいはホームルール団体では市民により起草され承認された憲章を指す」 (David J. MacCarthy, Jr., Local Government Law in a Nutsbell (Fourth Edition), op.cit.,p.19)
●「議会憲章(legislative charter) 」と「自治憲章(home rule charter) 」
・「議会憲章(legislative charter) 」…議会が定める
・「自治憲章(home rule charter) 」…自治体住民が起草し、採択するもの
住民投票で過半数の承認を得て発効。「州議会」の同意を合わせて必要とする自治体もある。改正も住民投票による。
○1875年 ミズーリ州憲法で 「自治憲章」の方式では初めて導入
●一般憲章と特別憲章、分類憲章と選択憲章
・フランスでは、パリを除く地方自治体の全てを「コミューン(commune) 」という画一的な地方制度としている。自治体法人全般に対して適用される「一般法」の制定により権限を授与するもの。 自治体法人化を促進するにはそれなりに有用であるが、多様性に適合しずらい。→「一般憲章 (general charer) 」
・各自治体によって異なる「特別法」の制定によるもの→「特別憲章(special charter) 」
州議会が地方問題に時間をかけすぎてしまう欠点がある。都市と農村議員の対立。
→特別立法禁止規定、特別憲章の賦与を禁止する州憲法改正をする自治体が増える。
↓
・これらの欠点を回避するために「分類憲章制度(classified charter system) 」が導入される。「1級都市」「2級都市」等に分類し、その等級に応じた「憲章」を授与。
→環境条件、地理的条件などの地域の特徴を反映できない。
↓
・州議会の定める憲章の選択肢から、住民が適合すると判断した「選択憲章(optional charter) 」を選択できる方式。1913年オハイオ州で初めて導入。 (現在1/3の州で実施)→ホームルール憲章(自治憲章)と異なり、州議会が選択肢の内容を変更しうるという問題は残る。
●全米市民連盟(NCL)の採択した「モデル都市憲章(Model City Charter) 」の条項
①第1条「市の権限(Power of the City) 」
②第2条「市議会(City Council) 」
③第3条「市支配人(City Manager) 」
④第4条「部局・職・機関(Departments, Offices and Agencies) 」
⑤第5条「財政手続(Financial Procedures) 」
⑥第6条「選挙・投票(Elections) 」
⑦第7条「総則条項(General Provisions) 」
⑧第8条「憲章改正(Charter Amendment) 」
⑨第9条「経過規定及び分離規定(Transition/ Separability Provision)
(小樽敏之『アメリカの地方自治』第一法規,平成16年,p269 )
3.日本における自治基本条例をめぐる状況と、比較の方向性について
●日本においては、憲法や地方自治法のなかで、都市憲章への授権規定がない。
地方自治法によって画一的に定めるという点で、フランス型か。
・憲法95条に 「特定の自治体にかかわる地方自治特別法の制定には、当該自治体の住民投票による同意を必要とする」定めがある。→「特別憲章」 を開く可能性はあるか。
・地方自治法に「分類憲章」を規定する可能性はあるか。
・地方自治法に「自治憲章」を規定し、自治体に授権することはできるか。
●自治基本条例の比較の観点
(松下啓一著『協働する社会をつくる条例』ぎょうせい,2004年 をもとに筆者が削除・ 追加し作成)
1.名称
2.前文
3.目的
4.定義規定
市民、区民、住民…、協働、参加・参画、まちづくり…
5.基本理念・基本原則
6.住民の権利・責務
住民、事業者
7.情報公開
情報共有、提供、公開
8.説明責任
9.行政の対応義務
10. 行政評価
11. 参加・協働の権利・義務など
12. 基本計画・基本構想への参加・協働
13. 意見聴取・パブリックコメント
14. 行政監視・オンブズマン
15. 住民投票
16. 附属機関の位置づけ・参加
17. 行政、首長、執行機関の役割・責務
18. 組織・機構
19. 行政手続
20. 財政
21. 議会
22. 条例の見直し、検討
23. 最高法規性、位置づけ規定
<参考文献>
原田尚彦『地方自治の法としくみ』2005年, 学陽書房
小樽敏之『アメリカの地方自治』第一法規,平成16年
松下啓一著『協働する社会をつくる条例』ぎょうせい,2004年
財団法人自治体国際化協会『アメリカにおけるホームルール』1999年
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